私立大学戦略的研究基盤形成支援事業

FIB/SEM による生体組織メゾスケールストラクトーム解析 の最適化および応用研究への基礎整備
平成25年度〜平成27年度私立大学戦略的基盤形成支援事業
・研究代表者 中村 桂一郎
・研究組織 久留米大学医学部 解剖学講座 顕微解剖・生体形成部門

報告書


プロジェクトの背景

fibsem

生体組織・細胞 正確な三次元微細構 を把握すること 生命科学、臨床的課題 本質を理解する上で必要不可欠である。例えば、脳を理解するためには少なくとも百ミクロン角の全シナプス結合状態を電子顕微鏡レベルで立体的に解析することが求められる。
技術的に困難であったこようなメゾスケール(光顕と電顕間nmサイズオーダー) 解析は、本プロジェクト中心課題であるFIB/SEMトモグラフィー法 (Focused ion beam/scanning electron microscope tomography)と呼はれる新しい顕微観察技術によりブレイクスルーされた。
2012年、米国の国家的巨大研究プロジェクトとして「脳全容解明」が表明された。ことからも、このような全構造解析がバイオサイエンスに与えるインパクトの大きさが分かるだろう。網羅的構築解析は神経系はもちろん、基礎・臨床の様々な医学研究課題に対し全く新しい概念を提供し、各専門分野に新たな展開をもたらす可能性を秘めている。

本プロジェクトの目的

FIB/SEMを用いた網羅的構造解析技術の醸成と医学生物学研究へ応用基盤の構築である。 久留米大学では2011年にライフサイエンス系では国内で最初にFIB/SEMトモグラフィー技術を導入し、医学生物学研究へ応用に取り組んできました。 今回のプロジェクトでは、これまでの経験を元に、一層の解析能力向上を図ると共に、ストラクトーム解析による新しい研究集団の形成と若手研究者育成を戦略的目的としました。

FIB/SEM Tomogaraphyとは

FIB/SEM装置は高性能SEMに超微細加工用のガリウムイオンビーム銃を組み合せた複合機器で,従来半導体の加工など,材料系の検査で用いられてきた機器でした.この集束ガリウムイオンビームは,あらゆる固体を数nmの単位で正確に削ることが出来る機器です.FIBによる超微細加工技術を用いると試料ブロックの表面10nmだけを正確に且つ平坦に削ることが出来ます.このようなことが出来れば,この新しくできた切削面をSEMで観察し,再びFIBで表面を正確に切削するという作業を自動で数百回繰り返すことにより,連続切削像を得ることができます.

この方法がTEM連続切片法と大きく異なるのは,切片を作らない点です.つまりSEMで試料ブロックの表面をそのまま観察するわけです.従来のSEM観察では試料の凹凸だけに注目してきましたが,FIBでつくられた完全に平滑な面では凹凸情報は存在しません.このような平坦な表面を観察すると組成コントラストと呼ばれる試料固有の情報を得ることが出来ます.この組成像は反転するとTEM像の様な画像となります.TEMの場合は超薄切片を透過した電子線を使って画像を得ています.この時,重金属で染色された部分では多くの電子が散乱し,透過する電子が減少し暗いコントラストとなります.この時,散乱した電子は,試料表面で反対側に跳ね返されているものもあり.これを反射電子と呼びます,この反射電子は照射する相手が切片であろうとバルクのブロックであろうと同じことが起こるため、この反射電子を検出して画像を作るとTEM像を丁度反転したコントラストをもつ画像が得られる.つまり,超薄切片を作製すること無しにTEM観察に匹敵する生体の超微構造が観察できるわけです.この画像取得法をBlock Face Imaging(BFI)呼んでいます。近年のSEMの検出器や試料作製法の発展によって,現在分解能4nmの画像が得られるようになっています.この方法だけでも十分特質に値します.たとえば,脊髄の全体構造を隙間無く高精細に観察することは従来のTEMでは極めて困難であったが,このBFIでは広範囲から高精細までを連続的に極めて簡単に観察することが可能になるのです..
FIB/SEMトモグラフィー法はこのような試料の微細切削法とBFIというブロック表面画像法を組み合わせることで可能になったメゾスケール3次元再構築法です。