FIB/SEM トモグラフィー(FIB/SEM Tomography),ISAR法(Ion-beam Serial Abrasion and Reconstruction) について (記述中)

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FIB/SEMトモグラフィーはFIB/SEMと呼ばれる機器を用いて組織を三次元再構築する技術です.空間分解能は10nm程度,最大100um角の空間を再構築出来ます.この技術は細胞丸ごと1個とか数十個の細胞が含まれる組織の微細構造を正確に把握することが可能です.これまでマクロレベルでの三次元構造解析にはX線CTが,nmレベルでは結晶解析という方法が用いられてきました.しかし数百nm-数十um角の空間という中間のスケール,いわば「メゾスケールmeso scale」を正確に解析するのは困難でした.FIB/SEMトモグラフィーは元々工学分野で発達し2008年に初めて生物に応用された技術でしたが,組織の生理機能に直結する細胞・組織全体の構造を正確に把握できることから,次世代ストラクトーム解析(Structome)や神経系におけるコネクトーム(connectome)解析を行う上での本命となる技術だと考えられています.この方法にはまだ一般的な名称が無く,FIB tomographyとかFIB-SEM,Volume EMなど様々な名称が用いられるのが現状です.我々は,この方法が原理的にイオンビームを用いた連続切削による再構築をすることから,Ion-beam Serial Abrasion and Reconstruction 「ISAR法」という言葉が最もこの技術を表しているのではないかと考えています.
我々は2008年末からこの方法に注目し検討を進めてきました.2011年4月にはFIB/SEM機Quanta3D FEG(日本FEI)を導入(久留米大学),国内での先駆けとしてこの手法を用いた解析を本格的に開始しました.
原理:
FIB/SEM装置は高性能SEMに超微細加工用のガリウムイオンビーム銃を組み合せた複合機器で,従来半導体の加工など,材料系の検査で用いられてきた機器でした.この集束ガリウムイオンビームは,あらゆる固体を数nmの単位で正確に削ることが出来る機器です.FIBによる超微細加工技術を用いると試料ブロックの表面10nmだけを正確に且つ平坦に削ることが出来ます.このようなことが出来れば,この新しくできた切削面をSEMで観察し,再びFIBで表面を正確に切削するという作業を自動で数百回繰り返すことにより,連続切削像を得ることができます.

この方法がTEM連続切片法と大きく異なるのは,切片を作らない点です.つまりSEMで試料ブロックの表面をそのまま観察するわけです.従来のSEM観察では試料の凹凸だけに注目してきましたが,FIBでつくられた完全に平滑な面では凹凸情報は存在しません.このような平坦な表面を観察すると組成コントラストと呼ばれる試料固有の情報を得ることが出来ます.この組成像は反転するとTEM像の様な画像となります.TEMの場合は超薄切片を透過した電子線を使って画像を得ています.この時,重金属で染色された部分では多くの電子が散乱し,透過する電子が減少し暗いコントラストとなります.この時,散乱した電子は,試料表面で反対側に跳ね返されているものもあり.これを反射電子と呼びます,この反射電子は照射する相手が切片であろうとバルクのブロックであろうと同じことが起こるため、この反射電子を検出して画像を作るとTEM像を丁度反転したコントラストをもつ画像が得られる.つまり,超薄切片を作製すること無しにTEM観察に匹敵する生体の超微構造が観察できるわけです.この画像取得法をBlock Face Imaging(BFI)呼んでいます。近年のSEMの検出器や試料作製法の発展によって,現在分解能4nmの画像が得られるようになっています.この方法だけでも十分特質に値します.たとえば,脊髄の全体構造を隙間無く高精細に観察することは従来のTEMでは極めて困難であったが,このBFIでは広範囲から高精細までを連続的に極めて簡単に観察することが可能になるのです..
FIB/SEMトモグラフィー法はこのような試料の微細切削法とBFIというブロック表面画像法を組み合わせることで可能になったメゾスケール3次元再構築法です。