ご 挨 拶

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21世紀になった頃、ひとまず終了したヒトゲノム計画によりもたらされた遺伝学・分子細胞生物学の発展を礎に、現在、生命科学研究が急激な展開をみせています。形態研究分野でも、共焦点レーザー顕微鏡を初めとする様々な顕微技術が開発され、ライブイメージングの発展も目を見張るものがあります。そういう時期である、将に今、生命の微細形態観察手法として、新たな発想に基づく次世代顕微法「FIB/SEMトモグラフィー法」が開発されました(2008, Knott)。2011年、久留米大学にFIB/SEM装置が設置されたのを切掛けに、我々は国内で先駆け生物組織のFIB/SEMトモグラフィー3次元構造解析に取り組んできました。  生体構造の3次元的理解は、肉眼から電子顕微鏡レベルまで、そのオーダーに拘わらず生命現象を理解するためには欠かすことのできないものです。これまでも様々な分野の研究者がその構造を解明しようと努力してきました。しかし、微細構造レベルの3次元構造解析は簡単ではありませんでした。我々が取り組むFIB/SEMトモグラフィー法はそれを実現する画期的手法です。この手法は生体組織・細胞の全構造を微細形態レベルで3次元的に明らかにする能力を持っています。

「ストラクトーム解析」 近年FIB/SEMトモグラフィー法と類似の電顕解析法がいくつか考案されています。ゲノーム、トランスクリプトーム、プロテオームなど、生命のすべてを解析してやろうというスタンスのオミックス研究になぞらえて、FIB/SEMトモグラフィー法をはじめとする全構造解析手法に対し”ストラクトーム”という用語が提唱されました。ストラクトーム解析は、細胞・組織全体の形態を把握し、“メゾスケール”と呼ばれるオーダーの世界を探索する構造のインフォマティクスとなることが期待されます。様々な機能的側面が明らかになった今、微細構造理解を深める研究方法として、これからの医学生物学研究における活躍が期待されるのです。  このような解析は、コンピューターの発展により初めて可能になったものです。一例として、臨床の現場では、医療者や技術者の多大な努力により確立されたCT、MRI画像のコンピューターによる3次元解析が日常おこなわれています。微細形態解析では、漸くコンピューター解析に耐える画像情報が得られるようになったところです。それは莫大な量のデータです。これまでの顕微鏡写真の試料作り・観察・撮影や解析とはひと味違うものである気配もあります。あらゆる分野で培われた画像データ処理の技術を駆使して”いのちの形”に挑むことができるようになった。今はそのような時代なのかも知れません。

 “Beauty is truth, truth beauty”というモットーのもと、我々は学内・外の他の基礎・臨床の講座をも巻き込んで、多くの皆様の協力のもと、正常状態や様々な病態における微細形態研究に取り組んでいます。

部屋のドアは常に開いています。いつでも声を掛けてください。見に来てください。

 中村桂一郎

 教室の歴史

久留米大学解剖学講座は、2003年にそれまでの第1と第2解剖学講座が一つの大講座となり、それぞれ肉眼・臨床解剖部門と顕微解剖・生体形成部門になりました。同じ時期、前後して主任教授が山木宏一および中村桂一郎に交代し、新たな展開を目指してきました。  我々の解剖学講座は、1928年の創立に始まります。久留米大学の電子顕微鏡研究は、その昔、旧第1解剖の竹重教授時代に黎明期の電子顕微鏡が導入されたことに始まります。その後、旧第2解剖では、山田英智、村上正浩、猪口哲夫の歴代教授、そして現中村桂一郎教授のもと、電子顕微鏡室と共に、その方法を核に据えた研究が引き継がれています。